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『機動警察パトレイバー the Movie』30th記念上映会&トークイベント レポート
2020年02月27日
2019年12月28日に、港区のユナイテッドシネマお台場 1番スクリーンにて、《『機動警察パトレイバー the Movie』30th記念上映会&トークイベント》が開催されました。
今回は、1989年公開のオリジナル版ではなく、1998年のDVD発売に合せて作られたサウンドリニューアル版を上映。上映後に、当時のスタッフによるトークステージが展開されました。
ゲストは本作の監督・押井守さん、脚本の伊藤和典さん、プロデューサーの鵜之澤伸さん(バンダイ※当時)と真木太郎さん(東北新社※当時)という、当時の実情をよく知る4人が集結。
MCは、〈機動警察パトレイバー 広報課〉の鈴木咲さんが、登場人物の1人、香貫花・クランシーのコスチューム姿で務めました。
冒頭の挨拶では、真木さんから「30年経ってみんな記憶が曖昧。かつ、自分が言っていることが正しい。そんな人ばっかりですから(笑) 何か暴露話が出るといいなと思っています」との発言もあり、客席からは大きな拍手が上がりました。
サウンドリニューアル版の制作裏話
今回上映されたサウンドリニューアル版の劇場上映は珍しく、押井監督も劇場のスクリーンで観たのは今回が初めてとのこと。
その制作にあたり、押井監督は「音のチャンネル数を増やして(2ch→5.1ch)、音源を作り直して。実はアフレコも、レギュラー陣や電話の声とか無線の声とかも、軒並み録り直しています」と、当時を振り返ります。
また、5.1ch化の作業はスタッフも含めて初めての経験で、押井監督からは苦労話も。
「川井君(音楽の川井憲次さん)がてんてこまいになっちゃって。元々2chで作った音楽を5.1chにしようとしても音圧が出てこないし、音がウーハー(低音域を再生するスピーカー)に喰われちゃってどうにもならない。フェーダー(ボリュームを調整するツマミ)上げきったらスピーカーが飛んじゃったり。スタジオにドルビー研究所から来たブラックボックスがあったんだけど、川井君が『あれの上でコーヒーこぼして(壊して)いいかな…』って言ったのを覚えている(笑)」
劇場版が作られた経緯は?
ここでは、登壇者4人がそれぞれの記憶をたどりながら話します。
最初の証言者は鵜之澤さん。「元々HEADGEARの皆さんはTVシリーズとして企画を作っていた。それを僕がバンダイに持って行ったが断られた。そこで、いつかTVシリーズをやるためのパイロットフィルムのような感じでOVAを6本作ることにした。ただ、ソフトを安く売るために、HEADGEARの印税は無し。その後OVAのVol.7を倍の予算で作ってHEADGEARの皆さんにもちゃんとギャラを払った。おかげさまでOVAは成功。TVシリーズに行く自信がついたので、スタッフにTV化の話をしたら、みんな『やらない』と言う。特に押井さんは、『TVシリーズをやるとスタッフがボロボロになるから、その前に劇場版をやりたい』と」
その話を聞いた真木さんは「じゃあ真相その2ね(笑)OVAがすごく当たったがHEADGEARの印税が無い。それで、東北新社でも『どうやって印税を払うか』っていう話をしていた。さっきのVol.7の話もあったけど、どこかで『劇場版を作ろう』ってことになった。それで、僕から押井さんに『映画を作りたい。ロボットがバンバンアクションする映画を作ってくれ』って言ったのがきっかけだと記憶している」
伊藤さんもご自身の記憶を話します。「押井さんは最初、劇場版に乗り気じゃ無かった。でもある時、僕の車で一緒に移動しているときに、『ちょっと思いついちゃった』って言いだして。『野明(ノア)もいるし、東京湾に方舟(はこぶね)を浮かべて…』って。その時点であらかた骨格は出来ていました」
すると押井監督は、「作品に関しては、伊藤君が言ったとおりで、それが自分の中できっかけになったのは間違いない。でも、制作することになったのは、あの二人(鵜之澤さん、真木さん)が言っているのとは明らかに違う。OVA6本の監督をしたけど、あの当時はまだ信用がなかったから『演出しちゃならん』ってプロデューサーの厳命で現場に一切タッチできなかった。自分としては不本意。でも、現場を見られない監督はやる意味がないから、これでパトレイバーは終わりだと思っていた。そこに鵜之澤が映画の話を持って来て『OVA6本成功したし、最後に一発デカイ花火を上げておわろうぜ!』って言ったの! TVシリーズの話は聞いてない!」
すかさずMCから「みんな言っている事が全然違う!」とツッコミが入り、会場は大爆笑に包まれました。
30年という時間の経過もさることながら、それぞれ立場が違うので異なった印象で憶えているのでしょうか。
『機動警察パトレイバー the Movie』製作中のエピソード
押井監督はこう振り返ります。「とにかく予算もスケジュールも無くて、当時あれこれ作戦を考えた。たとえば、松井(捜査課の刑事)のライン。映画は活劇なんだけどそれだけじゃ完成が間に合わないから、静かなサスペンスのシーンで尺を稼がなくっちゃって(笑) ところが、ロケハンとかで東京中を走り回っているうちに、「こっちの方が絶対、映画的に面白い。アクションは人にまかせればいいや」って気になっちゃって(笑) だから映画のラストは方舟がひっくり返ったところで終わるつもりだった。でも『せっかく〈零式〉(新型の機体)を出したんだから活躍させなきゃダメ、一騎打ちにしてくれ』って話になって困った。その分の尺の枚数の割り当ても無かったから」
ここでMCから、《劇場版3つの誓い》(「娯楽の王道をいく」、「本来の主人公・泉野明(いずみ のあ)と篠原遊馬(しのはら あすま)が活躍する」、「レイバー対レイバーの戦いを描く」)の存在について訊ねられた押井監督が、「それは聞いていたんだけど、製作が始まったら全部忘れていた」と答え、会場はまた大爆笑に。
《3つの誓い》を作った伊藤さんは、こう話します。「押井さんが『帆場(物語のキーマン、帆場暎一(ほば えいいち)のこと)がいなかったことにしていい?』って聞いてきた時に、『ダメ!絶対ダメ!』って反対した。たぶん、その(押井案)ほうが映画の次元としては一つ上がるんだけど、混乱する人もたくさん出てくる。お客さんにはラストの音楽を聴いて、気持ちよく映画館を出てほしいから、帆場がいなかったことにしちゃ絶対ダメなんです」
押井監督は、作画についても言及。「スタッフもI.G(アニメーション制作を担当したI.Gタツノコのこと。現・プロダクションI.G)も映画が初めてで、動きのあるシーンをみんな1コマや2コマ打ちで描いていて時間が掛かっていた。そこで、作画監督の黄瀬(和哉)が大英断を下して、全部3コマに打ち直したんです。嵐の波のシーンも全部。結果的に3コマ打ちの方が画に力が出て、それがすごく良かった。1コマや2コマだと滑らかに動く分だけ力が抜けちゃうので、こういうリアルっぽいスタイルの作品は3コマで決めなきゃダメだと。黄瀬の大英断のおかげで、私も1つ勉強になった」と話します。
※フィルム撮影の場合は1秒につき24コマを使用する。「コマ打ち」は1秒間24コマのうち、何コマごとに動画が入るのかを表したもの。「1コマ打ち」は24枚(1コマに1枚)、「2コマ打ち」は12枚(2コマに1枚)、「3コマ打ち」は8枚(3コマに1枚)となる
実写版(『THE NEXT GENERATION パトレイバー』(14~15)登場キャラのネーミングについて
伊藤さんが、ふいに押井監督に尋ねました。「実写版のキャラクター名は、なんでパチものみたいなの?」
この質問に対し、「『伊藤』とか『鵜之澤』とか、好きな名前でもなんでも良いけど、キャラクターの名前は性格の根拠を表すから。実写は特車二課の三代目って設定だったけど、自分の中でも初代のキャラクターの名前に執着があって、一文字違いで性格は全然別物って方向に流れた。おかげで自分の中でキャラクターがイメージできた。
それからね、伊藤君はキャラクターのネーミングの才能が天才的にある。セリフも抜群に上手い。それは、私だけじゃなく、亡くなった師匠(鳥海永行(とりうみ ひさゆき)監督のこと)も言っていた」と答える押井監督の言葉に、観客も聞き入っていました。
締めの挨拶
ここでトークイベントはタイムアップ。締めの挨拶となります。
伊藤さんは「さっきチラっと話が出た実写版があったおかげで、それまで疎遠になっていた押井さん以外のHEADGEARのメンバーが再結集することになりました。『パトレイバーって、そうじゃなくてこうじゃないの?』って、実写版のアンサーになるようなものを今作っておりますのでお楽しみに」と、次回作をアピール。
これに対して押井監督も「私が自分勝手に作った実写パトがあってですね、HEADGEARのメンバーから
は『全く気に入らないぞ』ってことになるだろうなって思ってた。 だから、いま進行中のパトレイバーは、きっと実写パトに対するストライクバックになるんだろうなと。でも、凄いことやってくれたら、私は逆に嬉しいですよ。
いまだに『パトレイバーが観たいんだ!』って言ってくれる人がいることに関して、コトを始めた人間は、どこかで答えるべきだと思っている。私は私の答えを出した。あとは、これからのパトレイバーがどんな答えを出すか、『お手並み拝見』です」と、エールを贈りました。
4月17日(金)からは、今回上映されたサウンドリニューアル版をベースとした『機動警察パトレイバー the Movie 4DX』の全国公開も決定!
30周年を超えてなお、盛り上がりを見せる『機動警察パトレイバー』に、今後も要注目です。
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