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片渕須直監督が登壇! 東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2018クリエイターズサロン レポート

2017年09月26日

ロングラン上映の続く大ヒット映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督を招いたトークイベント〈TAAF2018クリエイターズサロン〉が、豊島区の商業施設「WACCA池袋」で開催されました。
TAAFは、新たな人材の発掘・育成、アニメーション文化と産業の振興に寄与することを目的とした本格的な国際アニメーション映画祭。
クリエイターズサロンは、来年2018年3月開催のTAAF2018のプレイベントとして、TAAFに参加するクリエイターのトークを穏やかな雰囲気で楽しんでもらおうと企画されたもの。今回が初の試みとなります。

初回となる今回は、片渕須直監督のスペシャルトークと、昨年度のTAAF2017コンペティション部門 短編アニメーション グランプリ『翼と影を』(Elice Meng/Eleonora Marinoni監督)、優秀賞『クモの巣』(Natalia Chernysheva監督)、豊島区長賞『杏茸を少々』(Julien Grande監督)の3作品の上映が行われました。

TAAF2017レポートはこちらから

司会進行を務めるのは、TAAFフェスティバルディレクターの竹内孝次さんです。

実は竹内さんは、テレコムアニメーションフィルムの出身。挨拶に立った片渕監督から、「竹内さんとは36年来です。『名探偵ホームズ』(84)の時は、竹内さんは制作担当でした」と紹介されました。

 

翼と影を Of Shadows and Wings…
© Vivement Lundi ! / Nadasdy Film 2015

まずは、グランプリ『翼と影を』と優秀賞『クモの巣』を上映。

『翼と影を』は、抑圧された世界に住む〈鳥〉たちの物語。

クモの巣 “Spider web ““The Gossamer”
©Natalia Chernysheva

『クモの巣』は、おばあさんとその家に巣を作るクモの一日をユーモラスに描いた作品です。

片渕監督は「短編映画として、絵を描いて世界を作り出し、映像にする技術は、非常に高くなっていると思います。「『翼と影を』は一つ一つの動きや、光の作り方がよくできています。『クモの巣』は、他愛のないように見えて、ちゃんと動かしているのがすごく面白いですね。」と感想を述べます。

竹内さんからは「この2作品は、数多くのノミネート作品から、ヨーロッパ、北米、南米、アジア、日本から1人ずつ選出された審査員の合議によって選ばれました。海外の審査員の方は、こういった作品を好む傾向がありますね」と、選考についての解説がありました。

杏茸を少々 A fistful of girolles
©Atelier de production de la cambre

続いて豊島区長賞『杏茸を少々』を上映。フランスの農家の朝食づくりの描写と、キノコ狩りに出かけた父親のアクションが楽しめる一編です。

見終わるなり、「お腹がへりますね(笑)」とつぶやく片渕監督。「Julien Grande監督は、お父さんが走るところや、車にカゴを投げ入れるカットを見ると、アクションが得意なんじゃないかな?と思います。でも、発酵したパイ生地の滑らかで柔らかな質感も同時に描こうとしていて、いろんなものを持っている人だとも感じますね」と話します。

竹内さんも「カットが短くてテンポよく見られます。自分には審査の投票権は無いけれど、映像が描ける限界はどこだろう?と思いながらノミネート作品を見ています。その中で、こういった作品が出て来るのが面白い。(豊島区長が)よく選んでくれたなと思います」と述べます。

片渕監督は解説を続けます。「この作品の面白いのは、各国からの審査員ではなく、豊島区長が選んだというところです。

Julien Grande監督のインタビューを見ていたら、宮崎駿監督のファンで、宮崎アニメの料理のシーンが好きだと語っています。そういったシーンから、日本のアニメーションの持つ、ビビット(躍動的な様や鮮明な様)を感じて、自分の作品であえて挑んだのではないか?

絞められた鶏が、美味しそうなローストチキンに仕上がっていくシーンを見てお腹が減ってしまうという、映像だけでは感じるはずの無い匂いや味を自分の中から引っ張り出されるような感覚があります。ストーリーのわかりやすさや、日本人がアニメに求めている感覚があるこの作品は、日本人好みだと思います。」

話題は日本のアニメーションに移ります。

「『この世界の片隅に』では〈美味しそう〉だけではなく、〈不味そう〉までやっていますよね。そこまで表現して観客に伝えようという作品が、あまり見られなくなっていると思います」と話す竹内さん。

片渕監督は「最近の日本のアニメーションでは、脚本家の領分で作品が左右されているように感じることがある。〈ストーリーを書く人〉として線引きされている感覚ですね。脚本を書く人が〈映像表現とは何か?〉を考えるようになると、状況が変わって来るんじゃないかな?」と考えを述べました。

そして、片渕監督による脚本と絵コンテによるストーリー作りの話へ。

「僕は自分で脚本を書きますが、絵コンテも描く時のために文字にしづらい部分まで盛り込んで行くようにしています。

脚本を書く時に使っているのが、論理的に考える左脳。絵コンテを描くのは、造形的に考える右脳と云われています。でも左脳と右脳は別人格だと感じるんです。

最初にしっかりと脚本を書いてから、絵コンテを描き始めるとストーリーが作りやすい。でも、脚本で悩みながら論理的に書いた部分が、絵コンテを描いているとあっさりと別の表現が出て来ることがあるんです。あんなに考えたのに、こんなに簡単に自分に否定されるのかって(笑)」

「文字で一生懸命書いたのに、1枚の絵であっさり伝わっちゃうこともあるからね。でもそれは、アニメーションの長所かもしれない」とフォローを入れる竹内さんに、片渕監督は「アニメーションは、文字だけでは到達できない表現になっているのかもしれません」と応えました。

 

アヌシー国際アニメーション映画祭で『この世界の片隅に』が審査員賞、湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』がクリスタル賞を受賞した事にも話が及びます。竹内さんは、「アヌシーの長編部門で、日本のアニメーションが長編部門で2本同時に入賞するの初めてのこと。これは本当にすごいことなんです!」と、今回の快挙を説明。

片渕監督は「僕と湯浅君は、日本のアニメーションのど真ん中にはいない2人なんですけど、それが逆に、アニメーションってこういうこともできるのだという可能性の広がりを示せているんじゃないかと感じています」と、受賞の思いを語りました。

この後も、TAAFの選考作品についての話や、『この世界の片隅に』の制作秘話など、興味深い話題が時間いっぱいまで続きました。

東京アニメアワードフェスティバル2018は、来年3月9日(金)~12日(月)に開催。

現在はコンペティション部門の作品を募集中です。

応募締め切りは、短編10月31日(火)まで、長編11月10日(金)までです。

詳細は、TAAF2018公式サイトをご覧ください

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