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2019年06月26日

第23回 手塚治虫文化賞贈呈式・記念イベントが開催されました

2019年6月6日、朝日新聞東京本社内にある浜離宮朝日ホールで、第23回手塚治虫文化賞贈呈式・記念イベントが開催されました。

※《手塚治虫文化賞》の詳細はこちらから

手塚治虫文化賞は、日本のマンガ文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫さんの業績を記念し、マンガ文化の健全な発展に寄与することを目的に、朝日新聞社が主催者となって1997年に創設したものです。練馬区は、かつて手塚さんが創作拠点を練馬区富士見台に置いていたことから、第21回より後援しています。

第23回の受賞作品および受賞者は、次のとおりです。

【マンガ大賞】
<年間を通じて最も優れた作品に>
受賞作品:『その女、ジルバ』(小学館)
作者:有間しのぶさん

【新生賞】
<斬新な表現、画期的なテーマなど清新な才能の作者に>
受賞者:山田参助さん
『あれよ星屑』(KADOKAWA)で歴史の光と闇、人間の欲や業を鮮烈に描いた力量に対して

【短編賞】
<短編、4コマ、1コマなどを対象に作品・作者に>
受賞作品:『生理ちゃん』(KADOKAWA)
作者:小山健さん

【特別賞】
<マンガ文化の発展に寄与した個人・団体に>
受賞者:さいとう・たかをさん
代表作『ゴルゴ13』の連載50年達成と、長年にわたるマンガ文化への貢献に対して

生誕90周年の記念すべき年に開催された第23回

最初に主催者挨拶として、朝日新聞社の渡辺雅隆社長が登壇。手塚治虫文化賞の概要と、今回の受賞作品・受賞者が選出されたポイントの紹介に続き、練馬区をはじめとする後援団体で、受賞者の直筆サインが入った作品パネル展を順次開催することを発表しました。

続いて、手塚治虫さんの長男で、手塚プロダクション取締役、手塚治虫文化財団代表理事を務める手塚眞さんから来賓祝辞がありました。その中で手塚眞さんは、「手塚治虫の生誕90周年という記念すべき年に開催された今回も、手塚治虫文化賞にふさわしい作品と作者の方々が選ばれ、大変うれしく思っています」と述べました。

マンガ大賞は、満場一致で決定!

次に、今回の選考委員を代表して、南信長さんから選考経過の報告がありました。
第23回の対象は、2018年に刊行・発表された作品。書店員やマンガ雑誌編集者ら約200人による関係者推薦の結果も参考に、一次審査として8人の社外選考委員によるポイント投票で11作品がマンガ大賞にノミネートされ、審議によって最終候補に残ったのが4作品。

いずれも素晴らしくて高く評価されたなか、戦後から現代までたくましく生き抜いた人びとを意外な展開で描き、さらに前向きなキャラクターたちのパワーにも後押しされて、『その女、ジルバ(以下、ジルバ)』が「満場一致でマンガ大賞に選ばれました」。
南さんが選考で印象に残っているのは、『ジルバ』を強力にプッシュしていた選考委員の桜庭一樹さんが、「受賞決定の瞬間にガッツポーズを決め、感極まった様子だったこと」とし、「個人的には朝ドラにしてほしい」と、作品への想いを述べました。

新生賞は、選考委員の推す作者が多く、5名が最終候補に。審議を経て最終的には投票となり、マンガ大賞の候補にもあがった『あれよ星屑』を描いた、山田さんの受賞が決定。

短編賞も、新生賞と同様の展開となり、投票の結果選ばれたのが、小山さんの『生理ちゃん』。

特別賞は、代表作『ゴルゴ13』の連載を半世紀以上続け、いまなお現役として活躍されている、さいとうさんの受賞となりました。

総括として南さんは、「候補作品はどれも素晴らしく、全作品に賞を授与したいと思いました」と感想を述べたうえで、「できれば、もう少し賞を増やしていただきたい。技能賞とか、敢闘賞など」と、希望を率直な言葉に。続いて、「賞という形でお薦めのマンガを世の中に紹介できるのはとてもいいことであり、手塚治虫文化賞の存在は、これからますます大切になっていくと思います」と、賞に対する想いを述べました。

このあと贈呈式が行われ、受賞者に、賞状、「鉄腕アトム」ブロンズ像(造形作家でイラストレーターの横山宏さんデザイン)、副賞の目録が贈られました。

受賞者のコメント

【マンガ大賞】有間しのぶさん
「今回の『ジルバ』は、いろいろな方に取材をして、その方たちが背負ってきた苦しさ、悔しさ、怒り、悲しみを、たくさん受け止めて描きました。私に描ききれるのか、不安もありましたが、それを物語にすることで、苦しさや悲しみを喜びに変えられるのではないかという手応えを、描いているときに少しだけ感じられたことが、私には収穫でした。
だからといって、それが苦しみや悲しみを現実の世界で乗り越えられずに生きている人たちにとって、恩恵になるのか、損なのか得なのか、先の答えはわかりません。でも、私の仕事は、目の前にあるものを地道にやっていくことなんだと、今回の受賞で本当に励まされました。支えてもらったみなさんのおかげです、ありがとうございました」

【新生賞】山田参助さん
「敗戦後の日本については、ずいぶん昔から描いてみたいと考えていました。ただ、通りやすい企画ではないので端から諦めていたのですが、偶然その機会を得ることができ、長編マンガにも初めてトライさせてもらいました。
どうして焼け跡をテーマにしたのか、聞かれることがあります。昭和47年生まれの私が子どものころは、児童文学やテレビ、映画などで、意外とたくさん戦争のことが取り上げられていました。戦争を知らない世代とはいえ、間接的に触れる機会はたくさんあったのです。でも、同世代がそのことを覚えていないと知り、描いてみようと思ったわけです。
読者の方々や選考委員の方々には、改めてお礼を申し上げたいと思います。みなさん、ありがとうございました」

【短編賞】小山健さん
「僕は、小学生のときに読んだマンガで、過酷なマンガ制作の描写に怖気づき、マンガ家になることを諦めた人間です。また、出版社に持ち込みなどをせず、インターネットでマンガを描いて世に出ました。こんな軟派なやり方を、硬派な先生方がどう思われるのか不安でしたが、今回の受賞で仲間に入れてもらえたような気がして、本当にうれしいです。
なぜ、女性の生理を描こうと思ったのか。1話目を描いたときは、ただ生理が玄関から入ってきたら面白いのではないかと思い、ギャグマンガとして描きました。それが、回を重ねるためには取材が必要になり、女性から普段は語られない、さまざまな話を聞くと、“もっと世の中は、もっとこうなればいいのに”と、心に芽生えるものがありました。
でも、娯楽作品として楽しんでもらうには、作者が多くを語らない方がいいと思っています。ただ、地球全体を覆う巨大な呪いに、自分ひとりが気付いてしまったような孤独感が付きまとっていたところを、読者の方や編集の担当さんが『このマンガを描いていいよ』と言ってくれ、手塚治虫先生にも『描いていいよ』と言われた気がして、とても心強いです。本日は、どうもありがとうございました」

小山さんの挨拶の後に、サプライズゲストとして、今秋公開に向け制作が進んでいる実写映画から「生理ちゃん」のキャラクターが登場し、小山さんを祝福しました。

【特別賞】さいとう・たかをさん
「私は手塚先生に、すごく恩義を感じています。というのも、私は映画が大好きで、映画の世界に進みたかったのですが、当時は大卒であることがその条件であり、家庭の事情で早くから働くことになった私は道を閉ざされ、悶々とした毎日を送っていました。
そんなときに手塚先生の『新寶島(しんたからじま)』を読み、“紙で映画のようなことができる!”と気が付き、無我夢中で取り組みました。その結果が、いまの私です。出来過ぎた人生だと、つくづく思っています。どこまで描けるかわかりませんが、とにかく今後も頑張ってやろうという気持ちでいますので、よろしくお願いします。どうもありがとうございました」

受賞記念トーク《その女、しのぶと一樹とるみ子》

※画像提供:手塚治虫文化賞事務局

“有間愛”から始まった記念イベント
贈呈式のあと、記念イベントとして、マンガ大賞受賞の有間しのぶさん、選考委員の桜庭一樹さん、手塚治虫さんの長女である手塚るみ子さんによる『その女、しのぶと一樹とるみ子』と題した受賞記念トークが行われました。
まずは、有間さんの大ファンだという桜庭さんが、『ジルバ』には「人生100年時代の新40歳を描く新しさがあり、さらに、敗戦後の日本から平成が終わるまでの総括を、ブラジル移民の流転人生から描かれたのは素晴らしい」と、作品への賛辞を贈りました。

続いて話題になったのは、選考経過報告で南さんから明かされた、桜庭さんの“ガッツポーズ”について。「選考は生もので、何かの拍子で流れはすぐ変わる」という話を聞いていた桜庭さんは、『ジルバ』の大賞受賞で意見がまとまりつつあったときも、「流れを変えないよう、気配を殺していたんです」と告白。その甲斐あって大賞受賞が決まった瞬間、「“有間愛”から一気に存在感を出してしまったところを、南さんに見られた、というわけです」と、当時を振り返りました。
何かを乗り越えていく主人公を描きたい
次に手塚るみ子さんが、『ジルバ』を執筆したときの想いについて尋ねると、有間さんは20代後半から体調を崩し、苦しさや悲しさを一人で乗り越えなければいけない状況を経験。“乗り越えているのに誰もわかってくれない悔しさ”に共感を覚えるようになったと言います。「そこで、何かを乗り越えていく主人公を描きたいという気持ちが強くなり、それが爆発してできたのが『ジルバ』です」と、答えました。

続いて手塚るみ子さんは、ブラジル移民の話を描こうと思ったきっかけについて質問します。「出身地の福島は移民の方が多く、ブラジルやアメリカで頑張ってきた人たちの話を小さいころから聞いて心に残っていたから」と、有間さん。さらに、連載が始まる1カ月前に東日本大震災が発生して故郷の大切さを再確認したとき、移り変わりを余儀なくされた人びとへの想いが、さらに強くなったと言います。そして、「名もなく亡くなっていった方が多く、その無言の声を無視しないで、ていねいに拾って描こうと思ったら、この形になりました」と、作品に対する想いを明らかにしました。

手塚作品もマンガ家になるきっかけに
『ジルバ』についての質問が一段落したところで、そもそもマンガ家になろうと思ったきっかけを手塚るみ子さんが問うと、「実家はマンガが禁止だったんです」と、有間さん。それが、近所にマンガ好きの女の子が引っ越してきて、「こんなに面白い世界があったのかと気付き、もうマンガ家になるしかないと思いました」。 手塚治虫作品もそのときから大好きで、よく読んでいたのが、『ブラック・ジャック』『どろろ』『三つ目がとおる』と、『火の鳥 乱世編』。「大人になったら『ばるぼら』が始まって、これは一生の宝物だと思いました」。

『火の鳥』は桜庭さんも関係が深く、手塚治虫さんが残した原稿用紙2枚半の構想原稿をもとに、朝日新聞の土曜別刷版「be」で『小説 火の鳥 大地編』を現在連載中。最初に話があったときは絶句したものの、「こんな貴重な機会はないと思い、やらせていただけるならやりたいと、勇気を出して引き受けました」。 手塚るみ子さんが「桜庭さんの良さがどんどん出てきているので、楽しみにしています」と期待を述べると、有間さんも「桜庭先生の文章は歯切れがよく、楽しみに読ませてもらっています。これからも頑張ってください」と、エールを送りました。
原作にも、絵本風味なものにも、BLにも取り組みたい
最後に、手塚るみ子さんから今後について質問されると、まずは桜庭さんが、「手塚治虫文化賞の選考委員として、渾身の作品を数多く読ませていただきました。その想いに負けないよう、今年は『火の鳥』に取り組みます」と、決意を表明。
続いて有間さんは、「原作ものもやってみたいし、ファンタジー的なものや絵本風なものもやってみたい。BLも描きたい。いろいろ思っているので、これからも頑張っていきます」と意気込みを述べ、記念イベントは終了しました。
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