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練馬のアニメ学講座「アニメ・アーカイブ入門」~石神井公園ふるさと文化館の事例を交えて~

2019年3月9日、「練馬のアニメ学講座」の第1回『アニメ・アーカイブ入門』が、練馬区立石神井公園ふるさと文化館(以下、ふるさと文化館)で開催されました。
1本のアニメーション作品が完成するまでには、原画などの中間成果物やキャラクターグッズなどの派生制作物を含め、膨大な数の「モノ」が生み出されます。これを未来のためにどう残し、どう活用するのかを考え、実践するアニメ・アーカイブは、いまアニメーションの制作現場で大きな課題となっています。
今回は、業界内でいち早くアニメ・アーカイブに取り組んでいるアニメーション制作会社「Production I.G」(以下、I.G)のアーカイブグループ・リーダーを務められている山川道子さんを講師に迎えて、アニメ・アーカイブの現状についてお話いただきました。

ダイジェスト映像

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いまなぜ、アニメのアーカイブが必要なのか

アニメ・アーカイブは昔から必要だったものですが、近年その必要性がさらに高まっていると感じます。たとえば、2019年アカデミー賞の長編アニメーション映画賞に、『未来のミライ』がノミネートされました。そうすると海外からも「細田守監督の功績を知りたい」という問い合わせが来ることになります。それには応えなくてはならない。日本のアニメーションが注目されればされるほど、アニメ・アーカイブの重要性が高まっていくわけです。
アニメ・アーカイブとは、アニメーションに関わるすべてを対象に、将来誰かが使える状態で長期的に保管する取り組みのこと。アニメーターが描いたイラスト、原作の漫画や小説、スタッフが収集した資料類、映像制作の過程で生まれたデータ類、放送・公開された映像(テープやフィルム)、発売された映像メディア(DVDやブルーレイなど)、イベントの資料や記録(内容や発言など)、作品が紹介された雑誌など、すべてが対象です。

いまも増え続ける膨大なアーカイブ対象。

30分のTVアニメ番組1話でアニメーターが描いた絵を段ボールに詰めると、約5箱分。今はデジタル作画も進んでいますが、それでも段ボール2~3箱分の紙が出ます。これだけの量が、毎日・毎週のペースで増えていくわけです。
このほかにも、企画書や脚本、作画のスキャンデータ、仕上データ、撮影データなど、多くのデジタルデータが発生します。その容量をI.Gの例で見てみると、TV作品で平均3TB、劇場作品なら2TB。2016年に発生したデータ量は、12作品13TB(TV・劇場・ゲーム・短編など)にも及んでいます。
I.Gでは新しい作品ばかりでなく、セル画を使って制作していた古い作品の資料も多く残しています。人びとに大きな影響を与えた日本のアニメーションがどのように生まれ、いまに至ったのかを証明する資料としても、アーカイブは利用されています。
こうした大切な役割があることから、記録管理国際標準の「真正性」「信頼性」「完全性」「利用性」の4点が、アニメ・アーカイブにも求められています。

アニメ・アーカイブの現在:Production I.G の実践視点

アーカイブ担当のもとには、次々に膨大な数の段ボールが届くため、そのすべてを残すことは難しい状況です。とはいえ、クリエイターたちが全身全霊を注いでつくったモノを簡単に捨てることはできません。そこでI.Gでは取捨選択の理由が明確に説明できる基準として、「商品・宣伝で使えるもの」「後進育成に使えるもの」「日本の文化として残すもの」「I.Gの歴史として残すべきもの」という4つを設けました。

商品・宣伝で使えるもの

「商品・宣伝で使えるもの」とは、原画集などの書籍や展示会などで使えるもの。監督やスタッフがインタビューを受けるときの背景で流れる作品紹介映像や映り込むポスターなども対象です。また、続編や劇場版の制作、ネット配信や映像の再販などの可能性があるものも、アーカイブしておきます。

後進育成に使えるもの

I.Gには、アニメーターのほか、彩色担当、撮影担当、制作進行など、さまざまなスタッフが所属しています。こうした人材へのスキル継承をスムーズに行うための勉強素材も、アーカイブ資料として残しています。

日本の文化として残すもの

日本のアニメーション文化として後世に伝えるべき点があるものは、今後直接的にI.Gのビジネスになるか否かは別として残しています。たとえば『機動警察パトレイバー』は、国内外に大きな影響を与え、日本のアニメーション文化を象徴すると評価されていることから資料を残しています。

I.Gの歴史として残すもの

I.Gの歴史を語る上で、なくてはならない作品もアーカイブしています。たとえば『人狼 JIN-ROH』は、I.Gがつくったセル画作品として、最後に公開されたもの。監督のこだわりも、アニメーターの作画クオリティも、撮影技術も、当時の最高を結集しており、同じものは再現できない、ハイクオリティのセル画アニメであることからアーカイブしています。

アニメ・アーカイブを取り巻く動き

最近は、I.Gのようなアニメーション制作会社以外にも、アーカイブに取り組んでいる組織があります。「アニメ特撮アーカイブ機構(Anime Tokusatsu Archive Centre/ATAC)」は、庵野秀明氏が理事長として活動されている組織で、個人がお持ちのコレクションを預かる活動をしていると聞いています。

国も進めているアーカイブ事業

また、内閣の知的財産戦略本部が作成した「知的財産戦略推進計画」に基づき、複数の省庁でもアーカイブ事業が進められています。中でも文化庁は、「マンガ」「アニメ」「ゲーム」「メディアアート」の4分野を「メディア芸術」と呼び、以前から積極的なアーカイブ活動を展開しています。私も同庁内の事業に参加した経験があり、I.Gとしても2016年に予算支援を受け、自社のアーカイブ方法を「アニメーション・アーカイブの機能と実践~I.Gアーカイブにおけるアニメーション制作資料の保存と整理~」という形でまとめ、発表することができました。
このほか、国立国会図書館では「脚本アーカイブズ」をはじめとする4つのアーカイブ事業を推進。クールジャパンでもアニメ作品の活用が話題になりました。国立美術館では「国立映画アーカイブ」の中でフィルム時代の白黒アニメーションを残す取り組みが「日本アニメーション映画クラシックス」として展開されています。映像資料のコレクションという意味では、文化庁が運営する「文化遺産オンライン」というポータルサイトもあります。

超党派の議員活動にも注目

これ以外にも、国会で審議中の取り組みとして、超党派の「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」がまとめた「メディア芸術ナショナルセンター」設置関連法案があります。この構想で注目されるのは、国会図書館の支部図書館としてメディア芸術ナショナルセンターを設置し、そこで文化庁のメディア芸術アーカイブ資料を保管しようと考えているところ。その最大の利点は、図書館法の適用によって複製が可能になることです。著作権などの関係でアーカイブの為の複製がスムーズに行えない現状を、法改正で打破しようという動きは歓迎したいと思います。

パリでは「MANGA⇔TOKYO」展を開催

2018年にはパリで、アーカイブ資料の存在価値を発揮した取り組みがありました。外務省が主導的な役割を担って開催された「ジャポニスム2018」の公式企画「MANGA⇔TOKYO」展です。これは、東京の街並みを映し出してきた日本のマンガ・アニメ・ゲーム・特撮といった作品の原画や模型、映像などを通じて、東京の歴史をたどった展覧会。I.Gはアーカイブ資料の中から、江戸の街並みを描いた『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』と昭和の東京の街並みを描いた『人狼 JIN-ROH』の制作資料を貸し出し、「東京」の変化を伝えるとともに、日本のアニメを支えてきた技術についても紹介しました。

石神井公園ふるさと文化館 収蔵資料の紹介

ふるさと文化館では、過去の貴重なアニメーション資料を多く収蔵されており、2011年には「アニメのセル画展」として収蔵するセル画を展示し、セル画製作技術の変遷なども紹介されています。実物のセル画が見られる機会は少ないので、次回はみなさんもぜひ訪れてください。
今回、収蔵資料を拝見しましたが、感動したのは、ちゃんとした施設の中で、学芸員の方が手を尽くされ、管理番号を付けてしっかりと資料を整理し、一覧表をつくって細かく管理されていることです。
さらに、アニメ資料の保存に最適な中性紙のアーカイバル容器をふんだんに使い、膨大な数と量の作品資料を保管されているのは、本当に凄いことです。国内で唯一といえるかもしれません。

企業アーカイブの資料として貴重なものばかり

今回、東映アニメーション(旧・東映動画)さんの資料を拝見して、発見できたことがいくつかありました。

資料の共通点から見えてきた企業文化

初期作から最近の作品までの資料を見てわかったのは、資料に穴をあけて黒い紐で結んだりホッチキスなどで止めるなど、「資料を止める」という企業文化が継承されていることです。1社の資料を1カ所で多く保管されていることは、企業アーカイブの視点から、とても貴重だと感じました。

技術の変化に伴う制作現場の変遷も

1983年にTV放映された『とんがり帽子のメモル』の資料からはフィルム時代のアニメーション制作の進め方、2004年にTV放映された『ふたりはプリキュアMax Heart』の資料からはデジタル化された制作現場の流れが読み解けました。

企業を跨ぐことで見えた制作現場の特長

2000年にテレビ放映された『デジモンアドベンチャー02』の資料を見て感じたのは、指示の仕方や書き方がI.Gと違うことです。その要因として考えられるのは、設立母体の違い。東映アニメーションさんの基礎は実写映画の制作なので、実写制作の用語が、そのままアニメ制作にも流用されている。一方、I.Gは竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)から別れた会社なので、TVアニメの制作現場で使われている言葉が、そのまま使われています。こうした違いが発見できるのも、アーカイブ資料があるから。会社を跨いで見ることで発見できる特長もありました。

アニメーションとゲームを横断した研究に

ふるさと文化館で収蔵されているものは、このようにアニメ制作の初期から現在に至る技法や考え方などが読み解ける一級品の資料です。さらに、大もとがアニメーションのゲーム作品の資料もあり、作品が派生する流れも読み解けるほか、アニメーションとゲームを横断した研究に役立てることもできると感じました。

アーカイブに対する提案と願望

最後に、アーカイブに対する私の提案と願望を3つ、お伝えします。

他の組織とのアーカイブ連携

I.Gでは、制作に関連した国内外の書籍を1100冊以上保有しています。ゲーム内アニメーション映像もたくさん保管していますし、完成したゲームソフトも約100本保有。海外で発売された映像ソフトも約900本を保有しています。でも、I.Gで活用する機会はほとんどありません。そこで、活用機会があるところへ積極的に貸し出したいと思いますし、状況を見てお渡しすることも視野に入れています。

災害対策

博物館、美術館、図書館、文書館、公民館には、地震や水害などが発生したときの救済ネットワーク「saveMLAK」があります。でも、I.Gのような組織は対象外。災害発生時に資料を守る仕組みがないのです。そこで、アニメーション、マンガ、ゲームを扱っている民間企業でもsaveMLAKの枠組みに入る道を探ったり、救済プロジェクトの立ち上げも検討したいと思っています。

閉鎖時の受け皿

I.Gアーカイブは事業の一環として取り組んでいるため、方針転換などで閉鎖になった場合、資料の受け皿が必要になります。その対象として考えているのは、博物館、美術館、図書館など。最近は作品の舞台になった地域をめぐる聖地巡礼といったイベントも盛んなことから、TVアニメ『輪廻のラグランジェ』の舞台になった鴨川市に原画資料を提供していますし、新潟大学では、渡部英雄コレクションとしてアニメ資料を保管されています。このほか、大切に保存していただける国内外のコレクターの方々に提供することも手段のひとつだと考えています。
今回、ふるさと文化館とつながりができたので、災害対策や資料の保管をはじめ、新たな関係性が構築できる可能性があるのではないかと期待し、最後に提案させていただきました。
本日はありがとうございました。
山川さんにはこのあと、講座参加者から寄せられた多くの質問にもていねいに答えていただきました。
練馬区はアニメーション作品を作り続けるまちとして、今後も「練馬のアニメ学講座」のような、クリエイターたちの「知恵」「技術」「魂」を知ることで、作品がもっと楽しめるようになる事業を展開しています。

山川道子さん

3歳まで、生まれた練馬区で過ごす。2001年、Production I.Gに制作進行として入社。2002年、広報に異動。映画『キル・ビル』のアニメーション部分をはじめ、映画『イノセンス』、TV『お伽草子』の広報を担当。このとき、効果的な宣伝を行うためには、過去の資料が重要になることを実感する。そして2005年、過去の資料を取り扱うアーカイブ担当に。2011年からアーカイブ専任となり、文化庁メディア芸術デジタルアーカイブ事業に関わる。2016年にアーカイブグループが設置され、グループリーダーに就任。日本動画協会データベース・アーカイブ委員会、文化庁メディア芸術データベースアニメ分野作業部会、文化庁メディア芸術若手アニメーター等育成事業「あにめたまご」ヒヤリング委員、文化庁メディア芸術データベースアニメ分野実装検討チームなどに参加している。

Production I.G

1987年に設立された、アニメーション制作会社。練馬区にも関連スタジオを持つ。
劇場作品/『機動警察パトレイバー the Movie』(89)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(95)、『人狼 JIN-ROH』(00)、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(15)
TV作品/『精霊の守り人』(07)、『黒子のバスケ』(12)、『PSYCHO-PASS サイコパス』(12-13)、『ハイキュー!!』(14)、『銀河英雄伝説 Die Neue These 邂逅』(18)、『風が強く吹いている』(18-19)
OVA/『赤い光弾ジリオン 歌姫夜曲』(88)、『ツバサ TOKYO REVELATIONS』(07)『新テニスの王子様 OVA vs Genius10』(14)
ゲーム内アニメ/『テイルズ オブ デスティニー』(97)、『サクラ大戦2 〜君、死にたもうことなかれ〜』(98)、『エースコンバット3 エレクトロスフィア』(99)
など、幅広いジャンルの作品を制作している。

石神井公園ふるさと文化館

東映アニメーション(旧・東映動画)や虫プロダクションなどでアニメーション制作に携わっていた方々から寄贈された、貴重なアニメーション資料を数多く所蔵。その資料は、企画書、脚本、絵コンテといった属性ごとにナンバリングを行い、細かく整理して保管されている。
今回の講義会場では、東映アニメーションが制作した『ふたりはプリキュア Max Heart』の絵コンテと『デジモンアドベンチャー02』のタイムシートと原画が展示された。

所在地 東京都練馬区石神井町5-12-16​
開館時間 9:00~18:00
休館日 月曜日(月曜日が祝休日のときは、その直後の祝休日でない日)、年末年始(12月29日~1月3日)、臨時休館日
入館料 常設展示 無料(※特別展観覧料は有料)
お問合せ 03-3996-4060
公式サイト
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