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阿佐谷地域区民センターで開催!杉並アニメ人材育成セミナー サテライト河森正治「“オリジナル”を生み出す発想法」

2015年02月23日

2月7・8日の2日間、「杉並アニメ人材育成セミナー」が、阿佐谷地域区民センターで開催されました。

両日合わせて8講義が行われましたが、今回は8日午後の『サテライト河森正治「“オリジナル”を生み出す発想法」』を取材させていただきました。

マクロス*1シリーズやアクエリオン*2シリーズなど、独創的な世界観とデザインを生み出し続ける“ビジョンクリエイター”河森正治さんによるセミナーは、自分の経験を元にした、「オリジナル」の見つけ方。

まず、受講者全員に配られた紙に、「自分のイメージする木を描く」事からはじまりました。

 

 

◆オリジナルとは?

河森:「オリジナル」に関しては、昔からいろいろと論争されてきました。

押井守監督*3にいわせれば、「オリジナルなんて存在しない。どんなものにも原点はある。」って事になるんですが(笑)

そこで僕は、作品が作られる「時代」や、集団が持っている共通の考え方や、一種の空気の中で、「誰も目を向けていないもの」を発見し、そこから「時代を変える力を持つもの」を産み出すことを「オリジナル」だと定義してみています。みんなが思っている常識や、「こうやったら上手く行く」という考え方からはみ出した「失敗」や「偶然」を、「面白い!」と捉えることが出来れば、「オリジナル」を生み出す出発点になると思います。

 

◆「サンダーバード」が好きだった少年時代

河森:子どもの頃は、「サンダーバード」*4が好きでした。特にサンダーバード2号。プラモデルは作れば誰でも同じものが出来るけど、それが嫌だったんですね。紙を使って自分で作っていました。

紙飛行機も好きでした。となりの学校の校舎を越えて長く飛ぶものや、左右非対称のものとか、友達と競って作ってましたね。

中学3年生の時に「宇宙戦艦ヤマト」*5に出会います。クレジットからヤマトのデザインに関わった「スタジオぬえ」*6の存在を知り、友達と見学に行き、そこから宮武一貴さんや高千穂遥さんなどプロの方々にアドバイスをいただくようになりました。

大学に進学してから「ぬえ」にアルバイトとして入り、2年の時に入社。大学に通いながら仕事をしていました。

 

 

◆「ガウォーク」誕生

河森:その頃、ぬえで立ち上がった企画で、「今までにない人型でない主役メカ」って発注があったんです。でも一向にアイデアが出ない。1年くらいね。で、たまたま息抜きにスキーに行った時に、膝を曲げて滑る姿で「あ!」って閃いて。関節の向きを逆にしてデザインしたのが「ガウォーク」*7なんです。逆関節は、鳥の脚も参考にしました。そしてデザインを出したんだけど、「人型じゃないと売れない」って(笑)

前例が無い物は難しいんです。

 

◆「マクロス」制作へ

河森:企画のOKは出ない。そこでダミーの企画としてぬえのメンバーと一晩で考えたのが「マクロス」の前身だったんです。とにかく他でやってない事を詰め込んでみた。全長1.2㎞の宇宙船が、変形してロボットになるとか、その船の中に町があるとか、敵を巨人にして、そのサイズのロボットで戦うとか。そうしたら、こっちの企画の方が受けが良くて通ってしまって(笑)

実はリラックスして考えた方が、上手く行くこともよくあるんです。

 

◆「売れない」と言われたら絶好のチャンス

河森:マクロスに登場する「バルキリー」*8って戦闘機からロボットに変形するんですが、「エンジンどこ行った?」ってデザインにしたくなかった。参考として調べてたF-14*9戦闘機は、エンジンが2発だけどその間が広くて、ここに腕が入るなって気が付いた。艦載機だから尾翼が折り畳めたり、エンジンは足に収まるし、デザインのベースになりました。

でも、おもちゃメーカーは「戦闘機は売れない」「変形は売れない」って言う。

そこで、僕が紙で作ったバルキリーの原型を、おもちゃのモックアップ*10を作ってくれる会社に持ち込んで試作したんです。それを実際に変形させながらプレゼンしたら、「是非やりましょう!」って。オリジナルを通すには、プレゼンテーション力も重要ですね。

そうそう、この原型を変形させてる時に、「ガウォーク」形態になることに気が付いて、デザインを無駄にせずに済みました(笑)

◆他の真似はしない

河森:「マクロス」を制作するにあたって、「他の作品で評価されている部分の真似はしない」と決めてました。「敵と戦闘中にしゃべらない」とか「パイロットが艦橋に行って艦長と話さない」「画面分割は極力しない」とか(笑)

戦闘シーンを担当した板野一郎さんとは、「動きながら戦闘する」事にこだわった。現場にはかなり負担を掛けてしまってましたが、怖い物知らずというか、失敗を考えずにチャレンジしてましたね。

 

◆1+1≠2

河森:オリジナルの発想を生み出すには、1+1が2になるという思考だと、どうしても飛躍が出来ないんですね。マクロスでは、戦争をしている異星人が、歌でカルチャーショックを受けて戦いを止めます。この「歌」と「戦争」のように、離れた2つをくっつけることで化学変化を起こし、新しい発想が生まれます。この時にくっつける為の「触媒」となるコンセプトやモチーフを見つけることが重要になる。それが「文化を持たない異星人」だったり、「恋愛」だったりするわけです。

今までと視点を変えてみると、イロイロ発見できることも多いです。

お勧めは旅に出ること。行った事のない所を旅してみるのは、物の見方を変えるきっかけになります。

旅以外にも、「本を読む」のも良いですね。

それも、自分が嫌いだったり苦手な分野の本を読む。

そこでアイデアを見つける事は、自分の殻を破るきっかけになるでしょう。

 

◆オリジナルの源

河森:最初に描いてもらった木ですが、皆さんどんな木を描かれましたか?

葉っぱが付いている木、付いていない木、実が生ってたり、花が咲いていたり。

大きさも違うし、アングルも違う。「木」といっても、一人一人の持つイメージは違います。それが「個性」です。

そして大事なのが「観察力」です。その人の物の見方、オリジナリティとか個性とか、それぞれの表現力に関わってきます。普段見ているようで見ていないもの、みんなが見逃しているもの。そこに、オリジナルの源があると思います。新しい物が生み出せるポイントを、見つけて下さい。

ありがとうございました。

 

河森正治プロフィール

1960年生まれ。原作、監督、演出、脚本、画コンテ、メカニックデザイナーなど、を手がけるビジョンクリエイター。

(株)サテライト 専務取締役。

代表作に、マクロスシリーズ、アクエリオンシリーズ、「イーハトーブ幻想〜KENjIの春」、「AKB0048」、「ノブナガ・ザ・フール」(原作・メカデザインほか)など。

※用語解説

*1◆「超時空要塞マクロス」

TBS系列で1982年10月~1983年6月まで放映されたSFロボットアニメ。河森氏は企画から参加し、メカデザインから設定監修、脚本、構成、演出まで担当。84年に作られた劇場版「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」では共同監督を務めた。この後シリーズ化され、TV、映画、OVA、ゲームなどで展開が続いている。

 

*2◆「創聖のアクエリオン」

河森氏が原作と監督を務めた、テレビ東京ほかで2005年4月~9月まで放映されたSFロボットアニメ。2012年に続編が作られた他、OVAや劇場版がある。

 

*3◆押井守

アニメーション監督、映画監督。代表作に「うる星やつら/ビューティフル・ドリーマー」、「イノセンス」、「THE NEXT GENERATION -パトレイバー- 」など。

河森氏は、劇場版「機動警察パトレイバー」シリーズと「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」にメカデザインで参加。

 

*4◆「サンダーバード」

1965年~1966年にイギリスで放送された人形劇による特撮TV番組。

日本では1966年に初放送され、その後も繰り返し再放送された。

その精緻なメカニック描写は、日本の映像SF作品に多大な影響を与えている。

 

 

*5◆「宇宙戦艦ヤマト」

1974(昭和49)年に放映されたテレビアニメ。77年には劇場公開され、大ブームとなった。シリーズ化された他、実写版や新作アニメとしてリメイクされた。

 

*6◆スタジオぬえ

練馬区下石神井に本拠を置く、主にSF作品を中心とした企画制作スタジオ。初期メンバーとして高千穂遙(小説家、演出家)、松崎健一(脚本家)、宮武一貴(メカデザイナー、イラストレーター)、加藤直之(イラストレーター)らが活躍しており、河森氏、細野不二彦(漫画家)、佐藤道明(イラストレーター)、森田繁(脚本家)らが第2期メンバーとなる。

 

*7◆ガウォーク

「超時空要塞マクロス」の主役メカ、VF-1バルキリーの変形形態の一つ。

飛行機に鳥の脚のような逆関節の歩行脚を取り付けたイメージのメカ。

マクロスシリーズに欠かせないデザインとなっている。

 

*8◆バルキリー

「超時空要塞マクロス」の主役メカ。F-14 をデザインモチーフにした可変戦闘機で、VF-1が正式名称。飛行機モード(ファイター)、中間モード(ガウォーク)、ロボットモード(バトロイド)の3形態に変形する。

 

*9◆F-14

1973年に採用されたアメリカ海軍の戦闘機。愛称は「トムキャット」。

 

 

*10◆モックアップ

商品の外観デザイン等の検討レベルで用いられる試作用模型

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