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東映動画の傑作『どうぶつ宝島』を語りつくすトークイベント「このアニメはすごい!」レポート

2017年06月07日

左から、氷川竜介さん、叶精二さん

5月24日、渋谷区のLOFT9 Shibuyaで、東映動画の劇場用長編作品『どうぶつ宝島』を語るトークイベント、「このアニメはすごい!」が開催されました。

これは、『どうぶつ宝島』が東映ビデオのDVDシリーズ〈ザ・定番〉で発売されることを記念したイベント。

登壇したのは、本サイト「練馬にいた!アニメの巨人たち」でもお馴染みのアニメ・特撮研究家で明治大学大学院 兼任講師も務める氷川竜介さん、映像研究家で亜細亜大学講師の叶精二さんのお2人です。

『どうぶつ宝島』は、東映動画(現・東映アニメーション)が制作し1971年に公開の劇場用長編作品。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの海洋冒険小説「宝島」を大幅に脚色し、主人公・ジム、ヒロイン・キャシー、赤ん坊のバブの3人以外のキャラクターは、すべて動物にアレンジされています。

監督は池田宏さん。1959年に東映動画に入社後、脚本や演出として数々の作品に参加。1969年には、劇場用長編作品『空飛ぶゆうれい船』(69)を監督しています。また、自身の出身校でもある日本大学芸術学部で、講師としても活躍。教え子の中には、現在ロングランの続く映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督もいます。

本作のアイデア構成として、宮崎駿さん(アニメーション映画監督/『風の谷のナウシカ』(84)、『風立ちぬ』(13)など)も参加。豚の海賊・シルバー船長や、男勝りな活躍を見せるヒロイン・キャシーなど、のちの宮崎監督作品に見られるキャラクター造形のルーツが垣間見える作品です。

 

トークの冒頭に、氷川さんと叶さんが出しあったという『どうぶつ宝島』のチェックポイントを紹介。その中で氷川さんは「東映動画初期の長編作品=漫画映画の印象が強いですが、実はイメージぴったりとなると『長靴をはいた猫』(1969年公開)と『どうぶつ宝島』の2本しかありません」と重要な指摘をします。

つづいて、『どうぶつ宝島』の制作にまつわるお話に入ります。

監督を務めた池田宏さんは、高畑勲さん(アニメーション映画監督/『火垂るの墓』(88)、『かぐや姫の物語』(13)など)と同期入社。1968年に公開された高畑さん監督作品『太陽の王子 ホルスの大冒険』で、反戦・反公害の市民運動や労働運動などの影響が感じられる社会的なテーマの物語に衝撃を受けていました。1969年に池田さんが監督した『空飛ぶゆうれい船』でも社会問題を盛り込みましたが、本人にとっては不完全燃焼だったそうです。

そんな時、東映設立20周年記念作品としてスティーヴンソンの〈宝島〉を東映動画で制作することが決まります。

当時の東映動画の制作スタイルは《作画優先》。制作にあたり、最初に作画監督が決まり、そこから演出家が選ばれるというスタイルだったとのこと。このことについて氷川さんは、東映は映画会社なので、アニメーターを〈俳優〉として捉えていたのではないかと解説。まずスターである俳優を決め、そこから周りを固めていくというスタイルは、当時の東映動画の長編作品を理解する上でも重要なポイントだと話します。

〈宝島〉の作画監督は、東映動画発足時から活躍していた森康二さんが務めることに。森さんは短編作品『もぐらのモトロ』やTVアニメ「ハッスルパンチ」などで仕事を一緒にしていた池田さんを指名します。

叶さんによると、社会的なテーマを盛り込んだ作品を作りたかった池田さんは、大航海時代に大国のエゴで、時には「軍隊」として使われ、また別の時には「悪」として征伐された海賊の姿を描こうと考えたそうです。そこで池田さんは、森さんを説得に掛かります。しかし、当時の東映動画の作画スタッフは『太陽の王子 ホルスの大冒険』の長く苦しい過酷な制作で疲弊していたこともあり、森さんは「楽しくやろうよ」と池田案には乗らなかったそうです。

 

こうして、キャラクターの大部分を動物に置き換えた漫画映画『どうぶつ宝島』の制作がスタート。

宮崎駿さんや小田部羊一さん(アニメーター/「アルプスの少女ハイジ」(74・キャラクターデザイン、作画監督)、「母をたずねて三千里」(76・キャラクターデザイン、作画監督)など)、奥山玲子さん(アニメーター、銅版画家。小田部さんの奥さま。/代表作「母をたずねて三千里」(76・共同作監)、『じゃりン子チエ』(81・原画)など)、大田朱美さん(アニメーター、宮崎さんの奥さま/『長靴をはいた猫』(69・原画)、『空飛ぶゆうれい船』(69・原画)など)らの作画スタッフが集まります。

叶さんが過去に行った取材によると、大塚康生さん(アニメーター/「ルパン三世」(71・作画監督)、「未来少年コナン」(78・作画監督)など)もいくつかのシーンを手伝っていたという証言が残っているそうです。

オープニング映像は、東映動画、虫プロダクションを経てフリーになっていた彦根範夫さん(※ひこねのりお/カールおじさんのデザインなどで著名)が担当。東映動画が長編作品の作画を外注するのは、当時としては珍しいケースだったそうです。

原作にはないヒロイン・キャシーは、アイデア構成も務めた宮崎駿さんが作り出したキャラクター。その活躍ぶりは、のちの宮崎アニメのヒロインの原型ともいえるものです。叶さんによれば、主人公・ジムの弟である赤ん坊のバブのモデルは宮崎さんの二男・敬介さんではないかと。さらに「バブ」という名前は、宮崎さんの奥様でもある大田朱美さんの当時のニックネームから付けられたそうです。

 

作画は、森康二班、小田部羊一班、宮崎駿班の3班体制で行われたそうです。ここで、森さん、小田部さん、宮崎さんの描いたイメージボードについての解説が行われます。それぞれの個性が出ており、とくにキャシーについては「別人」と、氷川さん叶さん揃って言うほど解釈が異なっています。

森さんがイメージボードを描き、小田部さんが原画を担当したシーンなど、イメージボードと原画を別の人が担当したシーンもあり、叶さんが取材した時には、ご自分で原画を描いたと勘違いしていたこともあったそうす。

小田部さんが担当したジムの船出のシーンでは、海の波の動きを研究するように言われ、毎日のように海に出かけて波を見ていたという話も。約1か月かけて研究と試作を続け、線だけで波の動きを作り出すことに成功しています。

主にアクションシーンを担当したのは宮崎さん。海賊船の中を縦横無尽に駆け抜けるバトルのほとんどが、宮崎さんのアイデアだったとのことです。これらのアクションシーンの数々は、後に監督する『ルパン三世カリオストロの城』や『天空の城ラピュタ』などにも活かされることになります。

叶さんの持参した資料として、映画の公開前に宣伝の一環で東京新聞日曜版に連載された、漫画版「どうぶつ宝島」も紹介。この漫画版も宮崎駿さんによるもの。物語の展開が映画と異なっている部分もあります。

叶さんによると、宮崎さんは池田宏監督とは演出に対する「趣味の違い」があったそうで、そのあたりが反映されているようです。漫画版の展開は『天空の城 ラピュタ』や「未来少年コナン」を彷彿とさせるようなカットも見られました。

 

休憩をはさみ、トークの後半では『どうぶつ宝島』の名シーンをスクリーンで紹介。

前半で解説のあったオープニング映像からはじまり、ジムの船出、海賊船内を駆け巡る大バトルなどが上映されました。

その中の一つ、キャシーの部屋にシルバー船長たちが侵入するシーンの一部を、大塚康生さんが手がけたと云われています。森康二さんのインタビューでも語られており、叶さんが20数年前に奥山玲子さんに取材した際にも証言を得たそうです。実は大塚さんは1968年にAプロダクションに移籍してからも、東映動画作品を手伝っていたとか。叶さんの解説によると、池田さんの前作『空飛ぶゆうれい船』に登場する〈巨大タコ〉も、大塚さんが描いているとのこと。大塚さんの作画能力を頼って、東映動画からこっそりAプロダクションに持ち込まれていたようです。しかし、当の大塚さんはこの事を「認めないんですよ」と、叶さんは苦笑しながらお話しされていました。

シルバー船長率いる海賊船〈ポークソテー号〉が商船を襲って掠奪するシーンも上映。氷川さんは、このシーンは池田宏監督が描こうとしていた【大国のエゴで転がされる海賊の姿】をなんとか表現したのではないか?と解説します。

海賊船内でのバトルシーンでは、マストから船倉の最下層まで転げ落ちてしまうジムについて、氷川さんと叶さんがお2人で解説。初期の東映動画の長編映画は、作画枚数の多いことで知られますが、この頃のスタッフは既にTVアニメで作画枚数を減らす制作方法も経験していました。このシーンでも主要人物しか動かしていないにも関わらず、画面全体が動いているように見せていると話しました。

このほか、食べ物や飲み物、高低差と空間の表現、キャシーとジムの共闘や海上ラブシーン、ぎっしりと描きこまれたモブシーンなどの見どころも紹介されました。

 

『どうぶつ宝島』が公開された1971年は、東映動画の状況が大きく変わった年でもありました。

8月に東映動画の設立者で社長も兼任した、東映社長・大川博氏が逝去。新たに東映の社長に就任した岡田茂氏は、採算の良くなかった東映動画の縮小を指示、労使対立も激しくなっていきます。

これと前後する6月には高畑勲さんと宮崎駿さんが東映動画を退社、Aプロダクションに席を置きます。9月には、小田部羊一さんもAプロダクションに移籍。さらに多くの作画スタッフが東映動画を後にしました。

こういった状況から、東映動画の漫画映画路線は、一時閉ざされることになります。

翌年、高畑さん、宮崎さん、小田部さんの3人は、先に移籍していた大塚康生さんと共に、Aプロダクションで『パンダコパンダ』(1972年公開)を制作します。

この流れについて氷川さんは、「東映動画の漫画映画の終わりであり、ジブリ映画の始まりと言えるのかもしれません」と解説しました。

 

東映動画初期のターニングポイントを象徴している映画『どうぶつ宝島』は、東映ビデオ〈東映 ザ・定番〉シリーズDVDで発売中です。

『どうぶつ宝島』DVD発売中

2,800円+税 

発売元:東映ビデオ

http://www.toei-video.co.jp/catalog/dutd02104/

 

©東映

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