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2018年06月19日

第22回手塚治虫文化賞 贈呈式・記念イベントが開催されました

さる6月7日、第22回手塚治虫文化賞 贈呈式・記念イベントが、中央区の浜離宮朝日ホールで開催されました。

《手塚治虫文化賞》(朝日新聞社主催)は、マンガ文化に大きな足跡を残した手塚治虫さんの業績を記念し、「マンガ文化の健全な発展」を目的に1997年に創設されました。
※《手塚治虫文化賞》の詳細はこちらから

昨年からは、かつて手塚さんが創作活動の拠点としていた練馬区も後援として参加。
練馬アニメカーニバル2017では、雲田はるこさん(『昭和元禄落語心中』)の新生賞受賞を記念したイベントや、これまでの受賞作品を紹介するパネル展を開催しました。
※練馬アニメカーニバル2017レポートはこちらから

受賞作品及び受賞者は次のとおりです。

【マンガ大賞】
年間を通じて最も優れた作品に贈られます。
受賞者:野田サトルさん
受賞作品:『ゴールデンカムイ』(集英社)

【新生賞】
斬新な表現、画期的なテーマなど清新な才能の作者に贈られます。
受賞者:板垣巴留さん
擬人化された動物たちを描く『BEASTARS(ビースターズ)』(秋田書店)の独自の世界観と清新な表現に対して

【短編賞】
短編、4コマ、1コマなどを対象に作品・作者に贈られます。
受賞者:矢部太郎さん
受賞作品:『大家さんと僕』(新潮社)

【特別賞】
マンガ文化の発展に寄与した個人・団体に贈られます。
受賞者:ちばてつやさん
18年ぶりの単行本『ひねもすのたり日記』(小学館)刊行と長年の業績、マンガ文化への貢献に対して

第22回は、2017年に刊行されたマンガ単行本が選考対象。書店員やマンガ雑誌編集者ら約200人による「関係者推薦」の結果も参考に、8人の社外選考委員がポイント投票を行いました。
※詳細は《手塚治虫文化賞》公式サイトをご覧ください。

贈呈の前には、選考委員を務めたマンガ家の里中満智子さんが登壇し、各賞の選考経過について報告しました。
【マンガ大賞】
野田サトルさん 『ゴールデンカムイ』
◇濃密な作品ですけど、ヘタをすると下品になるかもしれない。それが下品にならないのは、作者の「志の高さ」があるからだと思います。作品の値打ちを決めるのは、テーマやジャンルではなく、作者の熱意と志だと思います。本当に素晴らしい作品です。
【新生賞】
板垣巴留さん 『BEASTARS(ビースターズ)』
◇画期的な作品です。動物で人間社会を表しているからこそ、現実の人間社会では嘘になってしまうような切羽詰まった設定、つまり「食べる側」か「食べられる側」か、そういうものが迫って来る。ドラマを練り上げる、作者の登場人物に対する思いやりとか、愛とか、そういうものが、あの作品の説得力を増していると思います。
【短編賞】
矢部太郎さん 『大家さんと僕』
◇もう本当に素晴らしいです。どうして芸人をやってらっしゃるのか、最初からこっちにいらしてればよかったのにと思います。エッセイマンガというものは、自分が体験したこと感じたことを、ただ描けばよいというものではありません。どう感じて、どう考えて、どう伝えるか。この伝え方で、魅力は変わって来ます。矢部さんはものすごい才能があり、なおかつ実力があります。この作品のタイトルは『大家さんと僕』ですが、いつか《大家(おおや)》ではなく、《大家(たいか)》になられることを祈っています。
【特別賞】
ちばてつやさん 『ひねもすのたり日記』
◇ちば先生にはかねがね、「(終戦後の中国から)引揚げで生きて帰って来た人は、帰れなかった人の分まで生きる義務がある。先生はせっかくマンガ家になったのだから、その人たちの無念の思い、そして何があったかをマンガで描くまでは死んではいけない」と脅かしてきました。ごめんなさい。でも、こういった形で、〈ちばてつや〉というたぐいまれな表現者の筆をかりて、当時の人たちの息づかいがよみがえって来る。すばらしいことだと思います。二度とあんな時代が来ないよう、ちば先生は描き続けて下さい。

贈呈式では受賞者に、表彰状と記念のブロンズ像が贈られました。
この像は、造形作家、イラストレーターとして知られる横山宏さんが、『鉄腕アトム』をイメージして創作したものです。

受賞者のコメント

【マンガ大賞】野田サトルさん
「現在『ゴールデンカムイ』はアニメが放送中で、非常に良いタイミングで(賞を)いただけたなと思っています。
話題になれば良いなと思っていたのですけど、受賞発表当日がとある芸能ニュースに被っちゃって、全部吹き飛んじゃったのか、親からも友人からも一切連絡が来ませんでした(笑)
タイミングが良いのだか悪いのだかというお話しでした。
本当に、ありがとうございました。」

【新生賞】板垣巴留さん
「顔出しNGということで、こういう形にさせていただいています。
会場に多くのそうそうたる方々がいらしていて、改めて、すごく大きな賞をいただいたんだなと痛感しております。
まだ若いので、これからも全力でマンガを描き続けていけたらなと思います。
がんばります。
今日は本当に、どうもありがとうございました。」

【短編賞】矢部太郎さん
「この度は、手塚治虫先生というマンガの神様のお名前が付いた賞を受賞させていただきまして、大変光栄です。
僕は今40歳です。38歳の時にマンガを描き始めました。
僕は新しいことを始めるのが苦手なんですけど、(マンガを描くことを)始めることができたのは、デジタルで描くという文明の利器に助けられたというところもあると思います。
でも一番は、大家さんが「矢部さんはいいわね。お若くて、なんでもできて、これからが楽しみね」というふうに、いつも言ってくださっていたことです。それを聞いて本当に若いような気がしてきて、なんでもできるような気がしてきて、実は自分が「18歳だ」と思うようにしたんです。これは本当に効果があって、10代だと思ったら、“失敗しても大概許せる” ので、こうして続けられたんだと思います。
「人生、何があるかわからない」とよく言われます。芸人をはじめてだんだんすり減ってきて人生の斜陽を感じていたりしたんですけど、そんな僕が今ここにこうして立っているというのは、半年前には思いもつかなかったことです。でも、そういうのも全部無駄じゃない、繋がってるんじゃないかと。それは僕だけじゃなく、みんながそうなんだろうと思います。
お笑い芸人が僕の本業なんですけど、人前でしゃべるのが苦手です。上手く言葉にできない気持ちを、これからもマンガで描けたらいいなと思います。」

【特別賞】ちばてつやさん
「このような、手塚先生のお名前を冠した賞をもらえるとは思っていませんでした。
この歳になりまして、「老兵は消え去るのみ」という感じでいましたところ、3年前に水木しげるさんが描いていた「ビックコミック」巻末ページのピンチヒッターを頼まれました。3ヶ月か半年くらいのつもりで引き受けたのですが、『ひねもすのたり日記』を3回描いたところで、水木さんが亡くなってしまった。これは水木さんに「何か託された」なという感じがしました。
手塚先生のアシスタントをしていたマンガ家さんに聞いた話しですが、ある時、手塚先生が仕事場に少年マガジンを持って来て、「この『あしたのジョー』というマンガは、どこが面白いんだ!」と聞かれたそうです。アシスタントさんたちが「劇画調でリアルでスピード感があって、キャラクターがカッコイイんです」と答えたところ、手塚先生は持っていた本を床に叩きつけてギュッと踏んだそうです。
それを聞いた私は、すごく嬉しくて(笑)石ノ森章太郎さんの『ジュン』など、いろいろなエピソードは聞いていましたが、「私の本も蹴ってもらえた!踏んづけてもらった!」と、マンガ家として自信を持つことができました。
手塚先生のおかげで、歳をとってまたこのような賞で褒めていただいて、また踏んづけていただきたいと思います。
編集の人や応援して下さる皆さまのおかげで、ヨタヨタと描いておりますが、もうすこし頑張りたいと思います。
どうもありがとうございました。」
贈呈式の後は、記念イベントが行われました。

第1部「この現場がスゴイッ!ゴールデンカムイ創作秘話―野田サトルの仕事場から―」

野田さんが所有する、アイヌの道具も展示

登壇するのは『ゴールデンカムイ』の作者・野田サトルさんと、アイヌ語監修の中川裕さん(千葉大学教授)。進行は、担当編集の大熊八甲さんが務めました。
中川さんによると、最初に野田さんと会った時には、第1話の原稿がほぼ出来た状態だったとのこと。
そこに描かれた、弓を構えるアイヌの少女・アシリパを見て、「カッコイイ!良く調べている。アイヌを紹介する教科書を作るなら、これだ!」と思ったそうです。そして、アイヌ語の監修を依頼され、二つ返事で引き受けたと話します。
ただ、この時はアシリパという名前ではなかったそうで、「別の名前にした方が良い」とアドバイスしたという中川さん。その後、野田さんが4つの候補を挙げ、その中にあった〈アシリパ〉に決まったそうです。

野田さんは制作について、連載の1年半ほど前から取材を開始。樺太アイヌの猟師の方々と一緒に鹿撃ちにも行ったそうです。最初はマンガ家であることを伏せていたため、解体中の写真を撮る姿に「変な奴だと思われたに違いない」と話す野田さん。作中にも描かれる脳みそを実食した時は、「周囲からドン引かれた」とのことでした。

そして、作中に出て来る〈言葉〉についての話題に移ります。
アイヌ語といっても地域によってかなりの違いがあるのは、作中でも描かれています。物語前半の舞台となる小樽のアイヌ語は、記録が残っていないそうで、「(小樽近辺に残る)墓標の形から、どの地方のアイヌに近いかを調べ、その地方のアイヌの言葉を参考にしながら創作しました」と話す中川さん。ところが、アシリパ一行が北海道を移動しはじめて、参考にした地域のアイヌが登場した時には慌てたそうです。
野田さんは、多彩な登場人物に合わせ、ロシア語、ウィルタ(樺太の少数民族)語、薩摩弁、秋田弁、新潟弁など、それぞれを監修してもらっていることも披露。自身も北海道出身の野田さんは、「母の北海道弁は、自分でも理解できない時がある」そうで、方言をリアルにしすぎると読者も困るので、全体的には標準語でしゃべらせていると、リアルとフィクションのさじ加減の難しさを語りました。

トークの最後に中川さんは、「ストーリー、演出、画力が揃った凄い作品。このマンガがどこに行くのかとても楽しみです。そして、アイヌ民族の言葉や文化にスポットライトを当てたことで、アイヌ文化をマスコミや出版業界でも大きく取り上げられるようになった。この社会的なインパクトは非常に大きい。この衝撃を持続できるようにしたいと思います」と挨拶。
野田さんは「いろいろなアイヌの方を取材をしていますが、マンガを描くにあたって、こうしてほしいと言われたのは1つだけです。『かわいそうなアイヌは描かなくていい。強いアイヌを描いてくれ』ということでした。そして、自分の曽祖父もいた〈(日本陸軍)第七師団〉をはじめ、出て来る勢力についてはできるだけ忠実に、かつフェアであるよう、慎重に描いています」と話し、トークを締めくくりました。

第2部〈手塚治虫生誕90周年記念対談 「治虫さんと僕」〉

登壇したのは、『大家さんと僕』の作者・矢部太郎さんと、手塚治虫さんのご息女・手塚るみ子さん。
受賞スピーチについて、「かなり緊張されてましたよね」と聞く手塚さんに、「一人でお客さんの前であんなに長時間しゃべったのは初めてです。僕にあんなに尺をくれる番組はありませんから」と矢部さんが答えると、会場からは笑いが上がり、リラックスムードでトークはスタート。
『大家さんと僕』の表現についての話題や、矢部さんと手塚作品との出会いと影響など、多岐にわたるトークが繰り広げられました。
また、絵本作家を父にもつ矢部さんと、マンガ家を父に持つ手塚さんにとって、幼少期から〈絵を描くこと〉が身近にあったことにも話が及びます。
矢部さんは、お父さんと一緒に動物園などにスケッチに行っていたことや、お父さんの仕事場は出入り自由だったので、編集者との打ち合せにも訳もわからず同席していたとことなどを披露。
また、自分で家族向けに「太郎新聞」を作っていたというエピソードでは、手塚さんが「新聞作りの編集者としての経験が、(マンガを描くうえで)観察したものを楽しかったり強調したりという表現力に活かしているのかもしれませんね」と考察されていました。
最後に、今後のマンガ家としての抱負を聞かれた矢部さんは、「やっぱり、大家さんのことをもっと知りたいので、これからも描きたいですね」と応えてトークは終了。
会場からは温かい拍手が送られました。
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